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ときメモ10周年記念企画
清川さん&片桐さんショートストーリー

清川さんの今日の問題
片桐さんの次の一言で台無しになった


10th anniversary

「ありえない。絶対にありえない。」

きらめき高校中庭の片隅にある花壇の前でうなっている女生徒が一人。
ちょっと体格のいいショートカットの男の子みたいな女の子。
そう、清川さんである。

それを作り出すことに挑戦しようにも、そもそも物理的に不可能だから駄目だとか、 作り出せたらノーベル園芸賞(注:ありません)ものだとか、 末代まで遊んで暮らせるお金が入るとか、そんな話は聞いたことがある。

いや、そういうことではない。
花を慈しむ者にとって、憧れていながらもたどり着いてはいけない聖なる存在…それはそういうものなのだ。

青い薔薇。
彼女の前で咲いている、ただ一輪の青い薔薇。

ホースから流れ落ちる水が中庭に小さな川を作っていた。


最近、清川さんは「マリア様がみてる」という小説に熱中していた。
「マリア様がみてる」とは、とある名門女学園に通う穢れなき乙女達のお話。
挨拶は「ごきげんよう。」。絵に描いたような優雅な女学園の設定。そこに集うこれまた絵に描いたような優雅な美少女達の学園生活。
生徒会の幹部のロサ・キネンシス(赤薔薇様)、ロサ・ギガンティア(白薔薇様)、ロサ・フェティダ(黄薔薇様)の憧れの薔薇様方。
虹「リボンが曲がっていてよ。」
み「さ、祥子様…」
虹「それは私の中の人でしょ。」 姉妹(スール)と呼ばれる師弟兼恋人のような関係…バリバリの少女趣味な設定が清川さんのツボついたようで、 彼女にしては珍しく活字の本を読み漁る日々が続いていた。

親友の片桐さんにその小説の話をしたくても、清川さんの”キャラ”はそういう小説とは外見上は無縁な位置にあり 笑われるのが見えていたため言えずにいたところだった。
有名な小説なのでもしかして知っているかもしれない。
一度だけ朝の挨拶に「ごきげんよう。」と言ってカマをかけたが、 死にそうなまでに笑われたので絶対にこの小説の話はしないことにした。

結局、小説のことは誰にも話せないままいた清川さんだったが、 この花壇の薔薇をそれぞれの色の薔薇様の名前… ロサ・キネンシス、ロサ・ギガンティア、ロサ・フェティダと呼んでかわいがっているだけで幸せだった。

その中の白い薔薇、ロサ・ギガンティアの花の中の1本が青くなっていたのである。


さて、目の前にある青い薔薇。
まずはこれが本当に本物かどうか確認せねばなるまい。

花から根っこまでの茎を指でなぞる。
花の付根も途中の茎もトゲも根っこも何ら不自然なところはない。
加工した後もなく、まして作り物ではない。

花そのものもどう見ても本物だ。
作り物の花ならすぐに分かる。
花びらを一枚取ってこすってすりつぶせば、今は隠れて見えない花びらの付根を見れば青い色がついている理由がわかるかもしれない。
そう思った清川さんは花びらの一枚をつまみ、軽く引っ張った。
指の力に応じて花が傾き、花びらが伸び筋ができる。

…と、そこではっとして指を離した。
今、自分がやろうとしている事はなんだ。
この花びら一枚によって青い薔薇の構造が判明するならば、この花びら一枚、たった一枚に何百万…何億円と払う人もいるだろう。
これはそういう価値のあるものかもしれない。
いや、それ以前に、自分自身の手で青い薔薇を破壊するという行動があまりにも許せなかった。
園芸史(そんな歴史があるのか)に名前を残す無謀な行動だ。後世の歴史家に顔向けできぬ。

駄目だ、駄目だ、私なんかが調べて考えたってどうしようもない。
とりあえず青い薔薇が無事なこの状態を維持しておこう。
しかし、このままほおって置いて枯れさせるのも問題だ。さて、どうしたものか。
誰か信用できるその業界の第一人者にでも知らせらることができないだろうか…ってそんな知り合いがいるわけがない。
今の自分にできるのはどこかの雑誌かテレビ局に投稿することくらいだろう。

まてよ…そこでふと思い出したことがあった。
自然界に存在するものに対し、その第一発見者は名前を付けることができると聞いたことがある。
それはつまり、この青い薔薇の名前を付ける栄誉が自分には与えられたかもしれないということだ。
凄い、それはとても凄いことだ。
現実味のない想像だとは分かっていつつも、ちょっと高揚する清川さんであった。
青い、青い薔薇だから”ブルー”、発見者の私の名前…望だから”ウイッシュ”で”ブルーウイッシュ”がいい。
凄い栄誉なことだったけど、その名前は以外にすんなり決まってしまった。

ブルーウイッシュ。
いい、非常にいい。気に入った。
都合のいい妄想に我を忘れる清川さんだった。

ふと、視線の先に小さな水の流れがあるのに気が付いた。
花壇から中庭の芝生に向かって伸びる小さな流れは距離にして数十メートルあり、今もゆっくり伸びている。
その流れを上流に辿っていくと自分の左手に持っているホースの先端にたどり着いた。
青い薔薇に夢中で、水が出しっぱなしなことを忘れていたのだ。

「水も滴る…って言うだろ。」
「もともといい女よ。」 「いけねッ!!」
そう言いながら水道の方に振り返りながら立ち上がった…その時。
「冷たッ!!」
いきなり目の前で大きな声と動く物体があったのでさらに驚いた。

そこにはびしょ濡れになった片桐さんが立っていた。
「私に何か恨みがあるの?」
少しむっとした表情でスカートのポケットからハンカチを取り出す片桐さん。
悪いとは思った清川さんだったが、そこはそれ、悪友同士。素直に謝る言葉は出なかった。
「水も滴る…って言うだろ。」
「もともといい女よ。」

「待ち合わせの時間からもう10分以上たってるわよ。ペナルティ。アイス奢ってね。」
水道を止め、ホースを片付けて戻ってきた清川さんに向かって片桐さんが笑いながら言った。




「限りなく本物に近い青い薔薇?そんな凝った悪戯する暇なんて私にはないわよ。」
清川さんが成り行きを説明すると片桐さんはあっけなく否定した。
この表情と口ぶりからそれは本当だろう。
むしろこの場合、片桐さんの悪戯であってくれた方がどれだけ楽になるであろうか。

清川さんの説明を聞きながら、青い薔薇をしげしげとなめるように見回す片桐さん。
時に茎を、時に葉っぱを引っ張り、その都度清川さんをはらはらさせた。
「まぁ、要するに、これはこの世にあるわけがない…と。」
「そ、そう。薔薇には青色の色素がまったく存在しない…」
「詳しいことはいいわ。要するにないものはない。それがファイナルアンサーでしょ。」
「そういうこと。」

清川さんの答えに何を考えていたのだろうか、相変わらず花を触りまくる片桐さん。
「確かに良く出来てるわねぇ…どう見ても本物だわ。」
しかし、次の瞬間、とんでもないことをしでかした。

  ぶちッ。

花から10センチくらいの位置から茎を折り曲げたかと思うと、そのまま青い薔薇の花を摘んでしまった。
あまりの出来事に一瞬固まってしまった清川さん。声をあげるまで数秒ほど必要とした。
「何すんのーーーーー!?」
驚いたような怒ったような表情で駆け寄る。

「ばッ、馬鹿ッ、馬鹿ッ、馬鹿ッ!!」
適当な言葉見つからず馬鹿馬鹿繰り返すしかない清川さんだった。

摘んだばかりの青い薔薇をくるくる回しながら何事もなかったかのように語りかける片桐さん。
「ねぇ。青い薔薇なんてある訳ないんでしょ?」
熱くなっていた清川さんだったが、片桐さんとの温度差を感じ、ちょっと冷静になった。
「…ああ、ある訳ない。」
「だったら誰かの悪戯か何かでしょ。」
「そう、かもしれない。けど、本物かもしれない…だろ。」
「こんな所に本物があるなら、とっくの昔にどこかで本物が見つかってるわよ。でしょ?」
「…そう、だな。」
「こんな所にすかっと本物があるわけないじゃない。」
「…そう、かも。」
「結論。これは悪戯で誰かがどこかで慌てふためく望を見て笑っているのよ。」
問答を繰り返し、すっかり冷静さを取り戻していた。

「こんなものはね…」
いままでくるくる回していた薔薇の花を持ち直すと、そのまま清川さんの頭に手を伸ばした。
驚く間もなく、なすがままにされる清川さん。
頭の左側に青い薔薇の花が添えられた。
片桐さんの次の一言で台無しになった。

「世界でただひとつしかない青い薔薇のリボンを飾った少女。絵になるわ。」
その場に立ち尽くす清川さんをよそに話し続ける片桐さん。
「これで絵を描いたらいいものが出来そうかもね〜。
タイトルは青い薔薇と望だから…ブルー…ブルーウイッシュなんてどう?」
ブルーウイッシュ。それはさっき清川さんが青い薔薇に付けた名前と同じではないか。
さすが親友。考えることは同じだ。
そのことを言おうとした清川さんだったが、片桐さんの次の一言で台無しになった。
「でも、ブルーウイッシュってありがちで誰でも考えつきそう…。
それに、よく見ると望にはあんまり似合わないわ。はははははは…」



「ほら、望。今日は画材を買うのに付き合ってくれるんでしょ。行くよ。」
そうだった、今日は片桐さんのデパート巡りに付き合う約束をしていたのだ。
青い薔薇に関してすっかり冷静になっていた清川さんは、そのことを考えることをやめ、片桐さんの後についていった。
ただ、頭の薔薇は今日だけはそのまま飾っておくことにした。
柄じゃないし、ちょっと恥かしかったけれども。


それから1時間程度過ぎた頃だろうか。
清川さんが作った川の水もすっかり土に染み込み、ただ流れの跡だけが残っていた頃。
既に誰もいない中庭の花壇の前に一人の人物が現れた。

白衣を着た女生徒。顔の右半分は前髪で隠れて見えなかったが、軽く釣りあがった左眼が鋭い印象を与えていた。
何かを探すように花壇の薔薇を探るが、それがないと分かると軽いため息をついた。
「失敗だったようね。うまくいけば研究費用を稼げるかと思ったのに。」
そう言うと、もう一度花壇を見回し元来た方向に戻っていった。

そのまま科学部部室へ入ってゆく彼女。
煙を吐く試験官、怪しい標本、何が書いてあるのかさっぱりわからない本に囲まれた部屋の中央の椅子にどすんと座りこう言った。
「誰、ありがちなオチなんて思っているのは?」


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