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勝手に企画!ドラマシリーズ!!
水のように(仮題)〜水無月琴子編〜

「私に英語を教えなさい。」
「はぁ。」
「日本語が分からないの?」
「いや、それは分かるけど・・・。」

大事な話があるから放課後に屋上に来てくれと言うので、愛の告白を期待したのだが残念ながら違う話のようだ。
「横文字嫌いの水無月さんがどうして英語を?」
「そうよ、それなのよ。」
「どれよ?」
間の抜けた返事をする主人公を水無月さんがにらむ。
「国際化社会かなんだか知らないけど、進学も就職も英語が出来ないと駄目なのよ。」
「まぁ、そういう時代だからね。」
「どうして私があんな軽薄な横文字を・・・。」
あまりの悔しさからか、赤い顔をうつむかせながら拳を握っていた。

水無月さんの横文字嫌いは筋金入り。
会話の中にちょっとでもカタカナが入ると激しく怒られるので何かと気を使う主人公だった。
つい先日も「ボキャブラリー」という言葉を使って右ほほにビンタをもらったばかり。
そんな水無月さんが英語を教えて欲しいとは何が彼女に起こったのか?
「将来、色々とやりたいと思えば思うほど英語が必要になるのよ。」
「水無月さんでもそんなこと考えるんだ。」
「ぶつわよ。」
にやにやとする主人公。
「何で俺に?」
「光に頼んだら学年トップあなたが適任だろうって。あの娘、英語は得意じゃないみたいなの。」
「でもそんな話、わざわざ屋上に呼び出さなくてもいいんじゃない?」
「人に聞かれると恥ずかしいじゃない。」
「ほほぉ?」
「あなた、私をからかっている?」
怒りたいけど怒れないじれったさで、水無月さんの顔は真っ赤だった。

水無月さんの顔は真っ赤だった。

さて、英語を教えるとしてもどこからどんな風に始めたらいいものか。
「どの程度から教えて欲しい。」
「初歩からお願い。」
「初歩って?簡単な単語とか。」
「ええ。」
威圧的な性格を押し殺し、平身低頭な彼女が新鮮に感じる。
「じゃあ、リンゴ。アッポォー。アッポォー。」
いかにも英語っぽい発音の主人公。
はたから見ると、からかわれているようにしか見えない。
「あなた、私を馬鹿にしている?アップルくらい知ってるわよ。」
「そっか、そっか。簡単すぎたぁ?」
にやにやする主人公に一言浴びせたい様子だが、何とか耐えているようだ。
「じゃあ、分別のある。センシブゥル。センシブゥル。」
「センシブゥル。センシブゥル。」
主人公の口調を真似して、オウム返しをする水無月さん。
恥辱に耐えるその姿にちょっとした興奮を覚える。
こんな美味しいシチュエーションは久々だ。

ここで主人公は水無月さんがどの程度の英語力があるか試してみることにした。
「ガソリンスタンドね。ガァソリンスタァンド。ガァソリンスタァンド。」
「ガァソリンスタァンド。ガァソリンスタァンド。」
何の疑いも無く繰り返す水無月さん。
「じゃあ、クリームパン。クリィームパァン。クリィームパァン。」
「クリィームパァン。クリィームパァン。」
これもまた繰り返す。
どうやら本当に分からないようだ。

ここまで来て、主人公の中にふつふつと湧き上がる感情と衝動があった。
楽しい、めちゃくちゃ面白れぇ。もっと、もっとだ。
普段、虐げられている主人公にとって雪辱を晴らす最高のチャンスではないか。

「次は、完成間近。イーシャンテン。イーシャンテン。」
「中国語っぽい言葉ね。」
「ああ、中国語から来たんだよ。他の言語から変化した単語って結構あるよ。」
「へぇ。」
「大きな波が押し寄せる津波って言葉。あれは英語でもtsunamiって言うんだ。」
「なるほど、日本は地震による津波が多いからね。」
「そういうことさ。」
「あなたって物知りね。」
「たまたま知ってただけさ。」
主人公の鼻は完全にピノキオ状態だ。

「ポリ公。ポリ公。警察のことだよ。」
「ポリコウ。ポリコウ。」
「うん、上出来上出来。うまく発音できてるよ。」
「そ、そう?」
誉められて、まんざらでなさそうな水無月さん。
「次はツルペタ。ツルペタ。」
「ツルペタ。ツルペタ。・・・ってなにこれ?」
「これは女の人のむ・・・」
しまった。
勢いに任せて思いついた言葉を言ってしまったが、本当の意味などいえるわけが無い。
「女の人の何?」
「あ、いや、その。」
どもる主人公を見つめる水無月さん。
「もしかしていやらしい言葉じゃないでしょうね。」
するどい読みで責めてくる。
「こ、これは年頃、もしくは年頃よりちょっと前の娘さんのういういしさをたたえる言葉さ。」
「本当?スケベな言葉じゃないでしょうね。」
「ス、スケベじゃなくって好意的な意味だよ。若さの持つさわやかさ、いい意味だよ。」
「なんか、あなたが言うといやらしい感じよ。」
「出来る大人はさりげなくHな話題を流したりするじゃないか。」
「・・・・まぁ、ねぇ。」
危ない、危ない。
こんなことでボロを出しては元も子もない。
もう少し慎重にやらねば。

・・・とまぁ、こんな感じの授業も一時間が過ぎようとした頃だった。
出入り口の扉が開き、光がやって来た。
「探したわよ、琴子。」
「あら、光。」
「そろそろ行かないと待ち合わせに遅れるわよ。」
「ああ、そんな時間ね。」
どうやら約束があるようだ。今日の天国の時間は終わりのよう。
「ねぇ、英語教えてもらったの?」
「ええ。単語をいくつか。」
「何なに?例えばどんな言葉?」
「そうねぇ。じゃあ教えてもらった言葉を使って・・・」

考え込む琴子に見入る光。
「光ってツルペタね。」
辺りの空気が凍りつく。本当の意味を理解していない水無月さんだけがにこにこしている。
「光って、とってもツルペタよね。」
駄目押しするように繰り返す水無月さん。

光の視線が、微笑む水無月さんから自分に移るって来るのが分かる。
しかし、視線を合わせない。合わせられない。
「説明、してくれるよね。」
いつもと違った、低い穏やかな口調の光。
「あ、いや、その・・・。」
もう駄目だ。

次の瞬間、光に襟首をつかまれたところまでは覚えていたのだが。

この事件が後に大きな意味をもってくるとは誰が想像できたであろうか。

・・・琴子は苦手な英語を克服できるのか?主人公との恋のゆくえは?乞うご期待!!


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