ベンチに横になり半ば眠りそうな状態で流れる雲に意識をゆだねていた。
何分、いや何時間くらいいただろうか。
ふと近くに人の気配を感じる。
その方向に視線を向けると、一人の女生徒が立っていた。
明るい紫色の髪を胸元で結んだ変な髪形とポケットに入れたカエルの人形。
白雪さんだ。
こちらには気が付いているようで、起き上がろうとすると声をかけてきた。
「電波届いた?」
フェンスと遠くの町並みを背景に、言うことは相変わらずだ。
いきなりじゃなくても、そんな質問に適切な答えを返せるはずがない。
返事に困っていると再び彼女が口を開く。
「あなたも、私を変な女だと思ってるでしょ?」
まさか「はい、そうです。」とは言えない。
ここは何気に話題のすり替えをするべきであろうか。
「あなたも私を変だと思ってるでしょ?」
「え、あ、妖精の声って純粋な心に聞こえて来るんじゃないかなぁ。」
会話になっていないが、そうとでも言うしかない。
それにしても何を言ってるんだ俺は。
言葉に説得力を持たせるために心にもないでまかせを言いつづける主人公。
「小さな子供が誰もいない空間を見て笑ったりする事ってあるだろ?」
「あ、ええ。」
「それは子供には霊が見えるからって聞いたことがある。
大人になると見えなくなるけど、子供の心だと見える…それと同じようなものじゃないかなぁ。」
「ふぅん。」
さすが白雪さんだ、こんな話にまともに耳を傾けている。
突然、白雪さんが大きな声をあげる。
「何?なに?妖精さん!?」
空を仰いだかと思うと、その場にしゃがみこみ両手で頭を押さえる。
緊迫した空気が辺りに立ちこめる。
超能力が破裂する直前の琴音ちゃんのようだ。(分からない方ごめん)
しゃがんだ姿勢のまま、白雪さんがつぶやく。
「分かった、分かったわ。妖精さん。」
次の瞬間、白雪さんは立ち上がり何事もなかったかのような笑顔になった。
「妖精さんからの指令です。」
「はぁ?」
「”長崎は今日も雨だった”を歌って下さい。」
「な、なんで?」
「歌わないと私が自殺しないといけません。妖精さんの指令です。」
さすが妖精だ。訳が分からない事はなはだしい。
「う、歌ってって言われても…。」
「歌ってくれないの?」
周りの視線が痛すぎる。俺はこの娘とは同類じゃないんだ。
「あ、いやその…。」
「そう、死ねって言うのね。」
そう言うと白雪さんがフェンスによじ登ろうとする。
「ス、スカートでそんな所に登ったら…。」
フェンスに手をかけたところで彼女の動きが止まる。
「論点、違うんじゃない?」
「いや、その…。」
「じゃあ歌ってくれる?」
「え、あ、う…。」
「大丈夫、”わわわわ〜♪”は私が歌ってあげる。」
「そこが一番美味しいんじゃないか…。」
「何か言った?」
「いいえ。」
周りの視線が優しいものに変わり、まばらに拍手が聞こえる。
「これで、もういいだろ。今日はこの辺で…。」
正直言ってもう限界だ。帰らせてくれ。
そう言うと、白雪さんがきつい目でこちらをにらんだ。
怒っている、怒っているのか?今度はなんだ!?
そんな視線のまま、つかつかと歩み寄る白雪さん。
目の前まで来たかと思うと、いきなりポケットのカエルの人形を取り出した。
「全然似てませんでしたね。妖精さん。」
カエルの人形に話かける白雪さん。
「あれが私のサブちゃんの歌?お笑いですわ。」
すでに主人公の心は天高く舞い上がっていた。
遠のく意識を押さえつつ、つぶやくのが精一杯だった。
「”長崎は今日も雨だった”は北島三郎の歌じゃないよ…。」
「今日は占いよりつまらなかったです。
おうちでシナリオを書いていたほうがよっぽど楽しかったです。」
そう言い残すと白雪さんは去っていった。
この事件が後に大きな意味をもってくるとは誰が想像できたであろうか。
・・・妖精は実在するのか?主人公との恋のゆくえは?乞うご期待!!