しかし彼女は一学年下で部活も違う。授業はもとより行事で一緒になることも極めて少ない。
その逆、目の届かない修学旅行や文化祭の準備などで他の娘と仲良くしているのではないだろうかと心配はつのるばかり。
どうして学年が違うの、と枕を濡らすこともあった。
そう、学年が違うのがいけない。同じ学年であればいいのだ。
明瞭なる事実。そのことに気がついた彼女は「主人公落第作戦」を決行した。
真夜中の学校に忍び込み、主人公の出席簿、成績表の改ざんをする。
怪しまれないように少しずつ数字を変えていく。主人公は誰も気がつかないうちに落第候補に近づいていった。
しばらくはその場で様子を見ていたものの、怪しい人影が戻って来るような気配もないようなので、職員室に入っていった。
主人公の担任の机を詮索し、毎度のように改ざんを開始する。
さて、作業も終わったのだが、先程の人影が物色していた机が気になったので見てみることにした。
目測では隣の隣、同学年の先生の机であろうか。
しかし、不思議なことに物色されていたはずの机には全く荒らされた形跡は残されていなかった。
引き出しは閉まっていて、本はきちんと本棚にある。透明デスクマットの間には1,000円札が挟んであった。
どろぼうならばこんな律儀に原状に戻すだろうか。目に見える所にあるお金にも手をつけずに。
腑に落ちない優美ではあったが、東の空が白み一番鶏の声が聞こえて来たので退散することにした。
そしてまた毎日が始まった。
ふと、自分の隣の木にも隠れている女の子がいるのに気がついた。
お弁当を食べる二人に向かって不満そうな顔でハンカチを噛んでいる。
見覚えがある。同学年の友人のバッテン娘、秋穂みのりだ。目と目が合う二人。
決まりが悪いが無視するわけにもいかない。こっそりと近づき小声で話しかけた。
「なにやってるの?」
「私の虹野先輩があんな奴と一緒に食事をしているなんて許せない。」
どうやら彼女のお目当ては虹野さんの方。
「虹野先輩、奴と離れないかなあ。」
愛しの彼があんな奴呼ばわされるのはいい気がしないが、利害は一致しているようだ。
いつものように虹野さんの美談と主人公の武勇伝に話を弾ませていた二人だった。
ふと話が途切れ、しばしの沈黙が訪れた。
「早乙女さんだから、教えてあげる。」
急に真剣な顔をした秋穂みのりがつぶやいた。
「これは二人にとっていいことだと思うの。」
何か重大なことを告白するつもりのようだった。
顔を近づける優美。秋穂みのりの告白に答えるべく神妙な表情だ。
「実は私、虹野先輩を落第させようかと思っているの。」
「はあ?」
「虹野先輩落第作戦よ。夜中に学校に忍び込んで虹野先輩の出席簿や成績表を改ざんしているの。」
みなまで言わなくとも話は通じる。その視線で内容を理解していることを感じた秋穂みのりは話を続けた。
「私は虹野先輩と同学年で一緒。そして主人公は虹野先輩から離れる。お互い、いいでしょ。」
話の筋は通っている。一応。
秋穂みのりの気迫につられてうなずく優美。
・・・友情と愛情のどちらをとるのか?優美との恋のゆくえは?乞うご期待!!